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ヤマモト工務店が全館空調を採用しない理由

  • 2025/08/11

近年、住宅業界では「全館空調」という言葉を耳にする機会が増えました。一昔前までは、各部屋に個別エアコンを設置するのが当たり前でしたが、現在はリビングだけでなく、寝室や廊下、さらには洗面所に至るまで、家中の温度を一定に保つ全館空調が、住宅会社のパンフレットやモデルハウスで大々的にアピールされています。

この背景には、地球温暖化による猛暑の深刻化、冬の室内の温度差によるヒートショック対策への意識の高まり、そして何よりも「より快適な暮らし」を求める現代のニーズがあります。SNSなどを見ても、全館空調を導入した家での快適な暮らしぶりが紹介され、これから家を建てる方々にとっては、もはや「あって当たり前」の設備とさえ感じられるかもしれません。

しかし、私はお客様へのご提案の際、この全館空調の採用を慎重に検討し、最終的には見送るケースがほとんどです。その選択には、単なるコストの問題だけでなく、お客様の「長期的な安心」と「負担の軽減」を最優先に考える、確固たる理由があります。

全館空調のメリット・デメリット

まずは、全館空調がもたらす快適性と、それに伴う考慮すべき点を確認しておきましょう。

メリット

  • 家全体が快適な温度:部屋ごとの温度差が少なく、どこにいても温度が一定。
  • 省スペース:各部屋にエアコンを設置する必要がないため、壁や窓周りがすっきりとし、家具の配置も自由になります。
  • デザイン性:室外機が複数不要なため、建物の外観を損ねません。
  • 空気の質:換気システムと一体になっている場合が多く、花粉やPM2.5などの侵入を防ぎ、きれいな空気を保ちやすいです。

デメリット

  • 初期費用:個別空調と比較して、導入費用が高額になる傾向があります。
  • 室温管理:設定温度が全室一定のため、部屋ごとの室温調整ができない
  • メンテナンス:フィルター交換やダクト清掃など、定期的なメンテナンスが欠かせません。
  • 故障時の影響:全館空調が故障すると、家全体の空調が停止するため、復旧までの間は不便を強いられます。
  • 電気代:24時間稼働が基本となるため、電気代が高くなる可能性があります。

全館空調を採用しない理由

全館空調の快適性は疑いようもありませんが、私はお客様へのご提案の際、採用を見送るケースがほとんどです。その理由は、お客様の「安心」と「負担軽減」を最優先に考えているからです。

1. 交換の容易性:家電としての寿命を考慮する

全館空調は、見た目には家の設備の一部のように見えますが、その実体はエアコンと同じく「家電」です。家電製品である以上、半永久的に使えるものではなく、いずれ修理や交換の時期が必ず訪れます。

私は、このような交換や買い替えを前提とした設備機器はお客様ご自身が家電量販店で手軽に購入・交換できる状態が最も望ましいと考えています。しかし、全館空調の場合、不具合が発生した際に施工業者や専門業者を介す必要があり、すぐに交換したいのに業者手配で遅れ、修理に数週間かかることも珍しくありません。真夏の猛暑日や真冬の厳寒期に、空調が使えない状況が続くのは、想像以上に大きなストレスとなるでしょう。

2. ビルトイン製品のリスク:もしもの時の大掛かりな工事と代替品の懸念

壁や天井に組み込むビルトイン型の製品は、基本的に「壊れない」ものが理想です。もし故障して撤去が必要になった場合、壁や天井を剥がす大掛かりな工事が必要となり、費用も時間も膨大にかかります。これは、お客様にとって予期せぬ大きな負担となる可能性が高いです。

さらに懸念されるのは、将来的にメーカーがメンテナンス対応を終了した場合です。その際、既存の設備に適合する代替品があるのか、技術の進歩によって規格が変わっていないか、といった予測は非常に困難です。結果として、全交換となり、その時に「希望通りのものが設置できない」「高額な工事費用がかかる」といった事態に陥るリスクも考えられます。

3. 衛生管理の重要性:お手入れの難しさとダクト内の汚染

全館空調のフィルターは、定期的にお手入れや交換をすることで、きれいな空気を維持できます。しかし、実際にはメーカーが推奨する通りに、こまめなお手入れを実践できる方は少ない、というのが私の経験上の印象です。フィルターの清掃を怠ると、せっかく導入した全館空調もきれいな空気が維持できないだけでなく、ダクトの中まで不衛生になるリスクがあります。見えない部分だからこそ、清潔に保つことの重要性は計り知れません。

4. 本当は快適ではない各部屋ごとの温度設定ができない

どの部屋も温度が一定に保たれるため快適という表現が使われます。しかし、快適さとは人によってことなります。例えば奥様の快適と感じる温度に設定すると、ご主人様は暑いと感じる。反対にご主人様の快適と感じる温度に設定すると奥様は寒いと感じる。またお風呂上がりは体温が上昇していますから風量を強くしたいと思っても、全館空調は局所的に強めることはできません。つまり快適と言われていることが、いざ暮らしてみるとストレスになることもあるのです。


結論:快適性の裏にあるリスクを理解した上で

全館空調は確かに快適な空間を提供してくれます。しかし、その裏には「交換の困難さ」「将来的なリスク」「メンテナンスの手間」といった、導入時には見落とされがちなリスクが潜んでいます。

もちろん、これらのリスクを十分に理解し、将来的なメンテナンスや交換にかかる費用、手間を許容できるのであれば、全館空調の採用に問題はありません。しかし、「良い部分だけ」に目を奪われて導入を決めてしまうと、後々大きな負担となり、後悔につながる可能性が高いです。

私の考えとしては、最初からお客様にとって「シンプルで、いざという時の対応が容易」なものを導入する方が、長期的に見て効率的であり、お客様への負担が少ないと考えています。快適であることはもちろん大切ですが、それ以上に「安心」を提供できる住まいづくりを心がけています。

住まいに関するご相談は、ぜひお気軽にお寄せください。